「うちの地域が国勢調査に選ばれたらしい」「今年はうちが調査対象なんだって」といった会話を耳にしたことはありませんか。
実はこの「選ばれた」という感覚、国勢調査の仕組みを考えると少し誤解があるかもしれません。
国勢調査は、一部の人が「選ばれて」受けるものではなく、日本に住むすべての人と世帯が対象となる調査です。
では、なぜ「選ばれた」と感じてしまうのでしょうか。
この記事を読めば、国勢調査で「選ばれる」という言葉が指す本当の意味、つまり調査の対象者と、調査を行う「調査員」との違いが明確になり、国勢調査の仕組みがスッキリと理解できます。
国勢調査は全員じゃないは誤解!選ばれる理由と調査員の選出基準

国勢調査は「全数調査」
国勢調査は、特定の人が選ばれるのではなく、日本国内に住んでいるすべての人と世帯が対象となる「全数調査」です。
したがって、「国勢調査に選ばれた」という場合、その理由は「日本国内に住んでいるから」ということになります。
国勢調査は、日本国内の人口や世帯の実態を正確に把握するために5年ごとに行われる、国のもっとも重要な統計調査です。
国籍や住民票の有無にかかわらず、日本に住んでいる人すべてが対象となります。
国勢調査が全員を対象とする理由
国勢調査で得られたデータは、私たちの生活に密接に関わる様々な行政サービスの基礎資料として活用されます。
- 行政施策の立案: 少子高齢化対策、雇用対策、福祉対策など、各種の行政施策を立案・推進するために利用されます。
- 法令に基づく利用: 衆議院議員の選挙区の区割りや、地方交付税の算定基準など、法律で定められた目的にも使われます。
- 防災計画: 地域ごとの人口がわかるため、災害時の避難所の設置や防災計画の策定に役立てられます。
このように、国や自治体が的確な行政運営を行うためには、一部を抜き出すのではなく、全員の正確な状況を把握する必要があるため、全数調査が行われます。
「選ばれる」調査との違い
国勢調査とは異なり、調査対象が一部の世帯から無作為に選ばれる「標本調査」も存在します。
ユーザーが国勢調査と混同しやすいのは、これらの調査かもしれません。
例えば、労働力調査では全国から約50世帯ごとに区切られた区域から、統計的な方法で無作為に調査対象世帯を抽出しています。
簡易調査と大規模調査の違いと対象範囲

国勢調査における簡易調査と大規模調査の主な違いは、調査項目の数にあります。
どちらの調査も、日本国内に住むすべての人と世帯を対象とする「全数調査」であるため、対象範囲は同じです。
国勢調査は5年ごとに実施され、西暦の末尾の数字によって調査の規模が分かれています。
両者の違いを以下にまとめます。
特徴 | 大規模調査 | 簡易調査 |
---|---|---|
実施年 | 西暦の末尾が「0」の年 | 西暦の末尾が「5」の年 |
調査項目数 | 多い(例:令和2年は19項目) | 少ない(例:平成27年は17項目) |
主な調査内容 | 人口の基本属性、経済的属性、住宅、人口移動、教育に関する事項 | 人口の基本属性、経済的属性、住宅に関する事項 |
対象範囲 | 日本国内に住むすべての人と世帯(全数調査) | 日本国内に住むすべての人と世帯(全数調査) |
調査項目の具体的な違い
大規模調査では、簡易調査の項目に加えて、より詳細な社会・経済の実態を把握するための項目が追加されます。
例えば、簡易調査では通常調査されない「5年前の住居の所在地」や「在学、卒業等教育の状況」といった人口移動や教育に関する項目が、大規模調査では調査対象となります。
ただし、例外もあります。平成27年(2015年)の簡易調査では、東日本大震災の影響を把握するため、特例として大規模調査の項目である「現在の住居における居住期間」と「5年前の住居の所在地」が調査項目に加えられました。
このように、国勢調査は定期的に社会の変化を捉えるため、10年ごとの大規模調査で詳細な構造を、その中間年の簡易調査で基本的な変化を把握するという役割分担をしています。
なぜ「選ばれた」と感じてしまうのか?
国勢調査が「全数調査」であるにもかかわらず、「選ばれる」という感覚が生じるのは、おそらく国勢調査と、一部の世帯を無作為に抽出して行う標本調査とを混同しているためです。
国勢調査は、調査対象として特定の世帯が「選ばれる」ことはありません。
国勢調査は、日本国内に住んでいるすべての人と世帯を対象とする「全数調査」です。
したがって、調査対象になる理由は「日本国内に住んでいるから」であり、確率としては100%です。
「選ばれる」調査との違い
「うちが選ばれた」という状況が発生するのは、国勢調査ではなく「標本調査」と呼ばれる別の種類の統計調査です。
標本調査では、統計理論に基づいて全国から偏りなく世帯を抽出するため、選ばれた世帯には調査票が届きます。
この経験から、「国の調査=選ばれるもの」という認識が生まれ、全数調査である国勢調査に対しても同様の感覚を抱くことがあると考えられます。
なぜ国勢調査は「全数」で行う必要があるのか
国勢調査が標本調査ではなく、手間と費用のかかる全数調査で行われるのには、明確な理由があります。
詳細な地域別データの作成
市町村内をさらに細かく分けた地域や、特定の年齢層、産業別の人口など、細かい単位で正確なデータを得るためには全数調査が不可欠です。
標本調査では誤差が大きくなり、信頼できるデータが得られません。
他の標本調査の基盤
国勢調査で得られた正確な人口・世帯の分布データは、労働力調査などの各種標本調査を行う際の「フレーム(母集団の抽出枠)」として利用されます。
国勢調査が正確であるからこそ、他の標本調査の精度も保たれるのです。
このように、国勢調査は日本の統計の根幹をなす最も重要な調査であるため、統計法によって全数調査として実施することが定められています。
「選ばれる」のは調査員
一方で、国勢調査において「選ばれる」立場にあるのは、調査対象の住民ではなく、調査を行う国勢調査員です。
国勢調査員は、一般からの公募や町内会からの推薦などによって選ばれ、非常勤の国家公務員として任命されます。
国勢調査員は公募や推薦で選ばれる
調査対象者ではなく、各世帯を訪問して調査票を配布・回収する「国勢調査員」は、選ばれる立場にあります。
調査員は一般からの公募や、町内会・自治会からの推薦など、地域の実情に応じた方法で選考されます。
国勢調査員になるには、以下のような要件を満たす必要があります。
- 原則として20歳以上であること
- 責任をもって調査事務を遂行できること
- 秘密の保護に関して信頼がおけること
- 税務や警察、選挙に直接関係のない者であること
- 暴力団員など反社会的勢力に該当しないこと
これらの基準を満たした人が、総務大臣によって非常勤の国家公務員として任命されます。
国勢調査で「選ばれる」のは調査員!その基準と任命方法
国勢調査員は、市区町村による候補者の選考・推薦を経て、総務大臣が非常勤の国家公務員として任命します。
国勢調査員の選考プロセス
国勢調査員は、各市区町村が地域の実情に応じて以下のような方法で候補者を選考・推薦します。
- 一般からの公募
- 町内会や自治会からの推薦
- 過去の調査経験者からの選考
国勢調査員に選ばれるための基準
国勢調査員は統計調査の根幹を支える重要な役割を担うため、以下の要件を満たす人の中から選考されます。
- 責任感: 責任をもって調査事務を遂行できる、原則として20歳以上の者であること。
- 守秘義務: 調査で知り得た個人の秘密を守れる、信頼のおける者であること。
- 中立性: 警察や選挙に直接関係のない者であること。これは、調査内容が他の目的に流用されるのではないかという疑念を抱かせないためです。
- 反社会勢力との無関係: 暴力団員やその他の反社会的勢力に該当しない者であること。
任命方法と身分
上記の基準に基づいて市区町村長に推薦された候補者を、最終的に総務大臣が任命します。
- 身分: 国勢調査員は、調査期間中、非常勤の国家公務員となります。
- 身分証明: 調査員は、顔写真付きの**「国勢調査員証」**を必ず携帯しています。調査員が訪問した際は、この身分証を確認することができます。
調査員の業務は、担当地域の巡回、調査書類の配布、回答の依頼、調査票の回収・提出など多岐にわたります。そのため、地域の実情や地理に明るい人が選ばれることが多くなっています。
海外在住や短期滞在者は調査対象になるかどうか
国勢調査の対象になるかどうかは、「普段住んでいる場所」が日本国内にあるかどうかで決まります。国籍は関係なく、滞在期間の「3ヶ月」が重要な基準となります。
結論として、海外に長期間住んでいる日本人や、日本に短期間滞在している外国人は調査対象外です。一方で、3ヶ月以上日本に滞在する予定の外国人は調査対象となります。
対象者 | 調査対象になるか | 理由 |
---|---|---|
海外に3ヶ月以上住んでいる日本人 | 対象外 | 「普段住んでいる場所」が海外にあるため。海外赴任者や留学生などが該当します。 |
日本に3ヶ月未満滞在する外国人 | 対象外 | 旅行者や短期出張者など、一時的な滞在であり「普段住んでいる場所」が海外にあるため。 |
日本に3ヶ月以上住む予定の外国人 | 対象 | 留学生や技能実習生、会社員など、3ヶ月以上日本に住む場所があるため。 |
基本原則:「普段住んでいる場所」と「3ヶ月」ルール
国勢調査は、調査日(10月1日)時点で「普段住んでいる場所」に住んでいる人を調査する現在地主義をとっています。
「普段住んでいる人」とは、その場所に3ヶ月以上住んでいる、または住むことになっている人を指します。この基準は、住民票の有無や国籍に関係なく適用されます。
- 海外在住の日本人: 海外での居住期間が3ヶ月以上にわたる場合、生活の本拠は海外にあると見なされるため、日本の国勢調査の対象にはなりません。
- 短期滞在の外国人: 観光や短期の仕事で日本を訪れている外国人は、滞在期間が3ヶ月未満であれば、居住者とは見なされず対象外となります。
- 長期滞在の外国人: 留学生や仕事のために来日し、3ヶ月以上滞在する予定の外国人は、国籍に関わらず日本の居住者と見なされ、調査対象に含まれます。
特殊なケース
- 外交団・外国軍人: 外国の外交団や領事団、外国軍の軍人・軍属とその家族は、国際法上の慣例により調査の対象外とされています。
- 入院患者や施設の入所者: 病院や施設に3ヶ月以上入院・入所している人は、その病院や施設で調査されます。3ヶ月未満の場合は、自宅で調査されます。
税法上の「居住者」との違い
注意点として、国勢調査の「居住者」の定義は、所得税法上の「居住者」とは異なります。
税金の計算で使われる区分と、統計調査で使われる区分は目的が異なるため、混同しないように注意が必要です。
回答義務と選ばれた場合の罰則や対応方法
国勢調査への回答は、統計法によって定められた国民の義務です。
したがって、「選ばれた」のではなく、日本に住むすべての人と世帯が回答する必要があります。
回答義務と法的根拠
報告義務(統計法第13条): 国勢調査のような重要な統計調査(基幹統計調査)について、報告を求められた者は、これを拒んだり虚偽の報告をしたりしてはならないと定められています。
回答義務の理由: 国勢調査で集められたデータは、少子高齢化対策、福祉政策、防災計画の策定、地方交付税の配分など、国や地方自治体の重要な政策決定の基礎資料として使われます。正確なデータが得られないと、行政サービスが実態に合わなくなる可能性があるため、全国民の正確な回答が不可欠とされています。
罰則について
統計法には、回答を拒否した場合や虚偽の回答をした場合の罰則規定が設けられています。
罰則内容(統計法第61条): 正当な理由なく回答を拒んだり、虚偽の回答をしたりした場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
罰則は実際に適用されるのか?
法律に罰則は定められていますが、国勢調査を拒否したことで個人が罰金刑を受けたという事例は、実際にはほとんどありません。
政府や自治体の方針は、罰則を適用して強制的に回答させることよりも、調査の重要性を説明し、国民の協力を得て回答してもらうことを優先しています。
- 調査員による再訪問や、回答を促す「督促状」が届く。
- それでも回答がない場合、最終手段として調査員が近隣への聞き取りや住民票などの行政記録を元に、分かる範囲の情報を補って調査票を作成することがあります。
正しい対応方法
国勢調査の調査票が届いた場合、以下の方法で対応します。
- インターネット回答: パソコンやスマートフォンから24時間いつでも回答できます。
- 郵送提出: 調査票に記入し、郵送で提出します。
- 調査員への提出: 調査票に記入し、担当の調査員に直接渡します。
期限を過ぎてしまった場合: 回答義務はなくならないため、気づいた時点ですぐに回答しましょう。インターネット回答期間が過ぎていれば、郵送で提出します。
不審な訪問者への対応: 国勢調査をかたる詐欺や不審な訪問に注意が必要です。
- 身分証の確認: 本物の国勢調査員は、必ず顔写真付きの**「国勢調査員証」**を携帯しています。訪問があった際は、まず身分証の提示を求めてください。
- 市区町村への確認: 不審に思った場合は、その場で回答せず、お住まいの市区町村の役所に連絡して、正規の調査員かどうかを確認するのが最も安全な対応です。怪しいからといって一方的に拒否するのではなく、正規のルートを確認してから対応することが重要です。
調査で得られた個人情報は統計法によって厳しく保護されており、調査員などの関係者が秘密を漏らした場合には重い罰則(拘禁刑または罰金)が科せられます。
まとめ:国勢調査は全員じゃないは誤解!選ばれる理由と調査員の選出基準
この記事では、国勢調査の対象者と調査員の選出基準について解説しました。
- 国勢調査は、一部の人が選ばれるのではなく、日本に住む全員が調査対象です。
- 「選ばれた」という感覚は、他の標本調査との混同から生まれる誤解です。
- 国勢調査において、責任感や守秘義務といった明確な基準で「選ばれる」のは、調査を実施する国勢調査員の方です。
国勢調査は、私たちの社会をより良くするための大切な基礎資料となります。
調査の重要性を正しく理解し、正確な回答をすることが、未来の暮らしやすい社会の実現につながります。
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