「近年の夏の記録的な猛暑で、お米の品質が落ちてしまった」
「米価は変わらないのに、燃料費や肥料代は上がる一方で、経営が厳しい」
全国の稲作農家の方々から、このような悩みの声をよく耳にします。
地球温暖化の進行は、私たち日本の主食であるお米作りにも大きな影響を及ぼしています 。
こうした課題の解決策の一つとして、今、大きな注目を集めているのが「再生二期作(さいせいにきさく)」という栽培技術です。
この方法は、温暖化を逆手にとり、収穫量を増やしながら、作業の手間やコストを削減できる可能性があるのです 。
この記事では、「再生二期作」とは一体どのようなものなのか、その基本から具体的なメリット・デメリット、そして実践的な始め方まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
【完全ガイド】再生二期作とは?メリット・デメリットから始め方まで

再生二期作とは?基本をわかりやすく解説
再生二期作とは、1回の田植えで、年に2回収穫を行う栽培方法のことです 。
通常、稲刈りをすると「株」が残ります。その株から再び新しい茎(稲)が生えてくる現象を「ひこばえ(再生稲)」と呼びます。再生二期作は、この「ひこばえ」を育てて2回目の収穫を行う、非常に効率的な技術なのです 。
この仕組みを図で見てみましょう。

- 春に田植え:通常の時期か、少し早めに田植えをします。
- 夏の収穫(1回目):夏に1回目の稲刈りを行います。
- ひこばえの生育:刈り取った株から「ひこばえ」が自然に生えてきます。
- 秋の収穫(2回目):秋に、育ったひこばえを収穫します。
従来の二期作や二毛作との違い
「年に2回収穫する」と聞くと、「二期作」や「二毛作」を思い浮かべる方も多いかもしれません。再生二期作の最大の違いは、2回目の田植えが不要な点です 。
| 栽培方法 | 作物の種類 | 田植えの回数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 再生二期作 | 同じ作物(イネ) | 1回 | 1回目の稲の株から再生させる。手間が少ない。 |
| 従来の二期作 | 同じ作物(イネ) | 2回 | 1回目の収穫後、もう一度苗を育てて田植えする 。 |
| 二毛作 | 異なる作物 | 2回 | 米を収穫した後に麦を育てるなど、違う作物を栽培する 。 |
このように、再生二期作は2回目の育苗や田植えの手間が一切かからないため、労力とコストを大幅に削減できる画期的な方法として期待されています。
再生二期作のメリット・デメリット
再生二期作には大きな魅力がありますが、もちろん良いことばかりではありません。
導入を検討する上で、メリットとデメリットの両方をしっかりと理解しておくことが重要です。
再生二期作の3つの大きなメリット
- 収量アップで収入増が期待できる
単純に収穫回数が2回になるため、年間の収穫量が大幅に増加します。農研機構が福岡県で行った試験栽培では、10アールあたり約950kgという、県の平均収量のほぼ2倍の収量を記録した例もあります 。収穫量が増えれば、当然、農家の収入向上に直結します。 - 省力化とコスト削減につながる
2回目の作付けにおける育苗や田植え作業が丸ごと不要になります 。これにより、苗箱などの資材費、トラクターの燃料代、そして何より大変な田植え作業にかかる人件費や労力を大幅にカットできます。 - 地球温暖化を逆手に取れる
春が早く暖かくなり、秋になっても気温が下がりにくくなった近年の気候は、稲作にとっては必ずしも悪いことばかりではありません 。田植えを早め、2回目の収穫時期を遅らせることができるため、温暖化というピンチをチャンスに変えることができるのです。
知っておくべき4つのデメリットと対策
地力の低下(土壌が疲れる)
同じ土地で年に2回もお米を育てるため、土壌の栄養分が通常より多く失われ、土地が痩せてしまう「地力低下」のリスクがあります 。
対策:堆肥を投入したり、定期的に土壌診断を行ったりして、土の状態をしっかり管理することが大切です。
追加コストが発生する場合がある
2回の収穫を支えるためには、より多くの肥料が必要になることがあります 。
また、後述する「高刈り」に対応できるコンバインがない場合、機械の導入コストがかかる可能性も指摘されています 。
病害虫のリスクが高まる
1回目の収穫後の株が、お米の品質を落とすイネカメムシなどの害虫の隠れ家になりやすいという問題があります 。
対策:地域の防除暦を確認し、計画的な農薬散布などの対策が不可欠です。
2期目の収量・品質が不安定になりやすい
2期目の「ひこばえ」は、1期目と比べて生育期間が短いため、収穫量が少なくなる傾向があります 。また、品質や味が安定しにくく、「加工用米や飼料米向き」という意見もあります 。
将来の気温上昇で再生二期作の収益性はどう変わるか
将来的に気温が上昇していくと、再生二期作の収益性はプラスとマイナスの両側面で変化すると予測されます。
基本的には「気候適応型農業」として有利に働く場面が多いと考えられますが、同時に新たなコストやリスクも発生します。
プラスの変化:収益性を高める要因
栽培適地の拡大: 気温上昇により、稲が生育できる期間がさらに長くなります 。これにより、これまで再生二期作が難しかった東北地方など、より冷涼な地域でも栽培が可能になる可能性があります 。
栽培できる地域が広がれば、それだけ市場全体の規模が拡大し、新たな収益機会が生まれます。
収量のさらなる増加: 生育に適した期間が延長されることで、2回目の収穫(再生稲)がより十分に生育し、収量が増加することが期待されます 。
特に、温暖化は再生二期作という技術そのものを有利にするため、「攻めの農業」として収益性を高める機会となり得ます 。
気候変動への適応策としての価値向上: 高温障害は通常の稲作にとって大きなリスクですが、再生二期作は温暖化を逆手に取る技術であるため、気候変動が深刻化するほど、その価値や優位性が高まります 。
マイナスの変化:収益性を下げる要因
追加コストの増加: 気温が上昇すると、病害虫の発生期間が長くなったり、これまで見られなかった害虫が発生したりするリスクが高まります。
これにより、農薬などの防除コストが増加する可能性があります。また、収量を維持・向上させるためには、より多くの肥料が必要になることも考えられます 。
極端な気象現象によるリスク: 温暖化は単なる気温上昇だけでなく、豪雨や台風の強大化、干ばつといった極端な気象現象の増加ももたらします。
これらの現象は、収穫直前の稲に壊滅的な被害を与え、収益をゼロにしてしまうリスクを高めます。
地力維持コストの増大: 収量が増えれば増えるほど、土壌から収奪される栄養分も多くなります。長期的に収益性を維持するためには、堆肥の投入や土壌改良といった地力維持のためのコストが現在よりもさらに重要になり、負担が増す可能性があります 。
総合的な見通し
短期的には、気温上昇は再生二期作の収量を増やし、適地を拡大させることで収益性を向上させる可能性が高いです 。特に、温暖化によって従来の稲作が打撃を受ける中で、再生二期作は相対的に有利な立場になるでしょう 。
しかし、長期的に見れば、病害虫対策や土壌管理にかかる追加コスト、そして異常気象によるリスクをいかに管理できるかが、収益性を維持する上での鍵となります。
したがって、将来の再生二期作は、単に「作って売る」だけでなく、環境負荷を低減しつつ、気候変動のリスクに対応する持続可能な農業システムとして確立できるかどうかが、真の収益性を左右すると言えるでしょう 。
【実践編】再生二期作の始め方・栽培カレンダー
基本的な流れと成功のポイント
では、実際に再生二期作を始めるには、どうすれば良いのでしょうか。ここでは基本的な流れと成功のポイントを解説します。
1. 品種を選ぶ
再生二期作には、高温に強く、収量が多い品種が向いています。現在、最も注目されているのが「にじのきらめき」という品種です。コシヒカリ並みの美味しさを持ちながら、暑さに強く、病気にも強いという特徴があります 。
2. 栽培のポイント
再生二期作を成功させるには、いくつかのコツがあります。
早めの田植え: 温暖な地域では、通常より早い4月頃に田植えを行います。
重要な「高刈り」: 1回目の収穫の際、稲を株元から高い位置(約40cmが目安)で刈り取ることが最大のポイントです 。これにより、株に栄養分が多く残り、ひこばえが元気に再生します。
追肥と水管理: 1回目の収穫後、ひこばえの成長を促すために肥料(追肥)を与え、適切に水を管理します。
【栽培カレンダーの例(温暖地)】
| 時期 | 作業内容 |
|---|---|
| 4月 | 田植え |
| 8月上旬 | 1回目の収穫(高刈り)+ 追肥 |
| 8月~10月 | ひこばえの生育・水管理 |
| 10月下旬 | 2回目の収穫 |
※これはあくまで一例です。お住まいの地域の気候に合わせて調整が必要です。
再生二期作で最適な刈取り高さの範囲は何
再生二期作における1回目の稲の最適な刈取り高さは、地面から40cm程度が推奨されています 。
研究機関や実証実験の結果、この「高刈り」が2回目の収穫量(再生稲の収量)を最大化するための重要なポイントであることが分かっています 。
なぜ40cmの「高刈り」が良いのか?
栄養分の確保: 稲は、光合成で作ったデンプンや糖などの栄養分(非構造性炭水化物:NSC)を茎や葉に蓄えています 。
高い位置で刈り取ることで、株元に残る茎の部分が多くなり、そこに蓄えられた栄養分を再生する力として利用できるため、2回目の稲(ひこばえ)の生育が旺盛になります 。
穂数の増加: 農研機構が行った試験では、地際から40cmで高刈りした場合、20cmで低刈りした場合に比べて、再生後の穂数が増加し、結果的に15%多く収穫できたというデータがあります 。
葉面積の確保: 高刈りをすると、より多くの葉が株に残ります(葉面積指数:LAIの増加) 。残った葉が光合成を行うことで、再生のためのエネルギーをさらに作り出すことができます 。
一部の事例では「40cmから50cm」という言及もありますが 、多くの研究や実証実験では40cmという数値が一つの基準として示されています 。
注意点
コンバインの種類: 日本で広く普及している自脱型コンバインは、このような高刈りに対応していない場合があります 。
そのため、作物の高さに応じて刈取り部を細かく調整できる汎用コンバインが必要になるケースがあります 。
品種や環境による違い: 最適な高さは、栽培する品種やその地域の気候によっても変わる可能性があります 。
再生二期作を成功させるためには、単に高く刈るだけでなく、品種の選定、適切な施肥管理など、総合的な栽培技術が重要となります 。
どの品種が再生二期作で再生力と食味を両立しやすいか
再生二期作で「再生力」と「食味」を両立しやすい品種として、現在最も注目され、研究や実証実験で頻繁に用いられているのが「にじのきらめき」です 。
この品種が最適とされる理由は、再生二期作に求められる複数の重要な特性を高いレベルで兼ね備えているためです。
「にじのきらめき」が最適な理由
優れた食味: 人気品種である「コシヒカリ」と同等の良好な食味を持つと評価されています 。農研機構の試験では、再生二期作で収穫した1期米と2期米(再生米)の間に明確な食味の差異は見られなかったと報告されており、2度の収穫で食味を維持しやすいことが示されています 。
高い再生力と収量性: 収量性が高く、稲刈り後に再び稲穂が実る(再生する)能力に優れています 。農研機構の試験では、「にじのきらめき」を用いた再生二期作で、地域の平均収量の約2倍にあたる収量を達成しています 。
高温耐性: 夏の暑さに強く、高温によって米が白く濁るといった品質低下が起きにくい特性を持っています 。これは、2回目の稲が暑い時期に生育する再生二期作において非常に重要な要素です。
再生二期作に適した品種の一般的な条件
「にじのきらめき」以外にも、再生二期作で成功するためには、一般的に以下のような条件を満たす品種が望ましいとされています 。
再生力の高さ: 1回目の収穫後、株から力強く再生する能力(萌芽率)が高いこと。
多収性: 1期作と2期作の合計収量を最大化するため、もともと収量が多い品種であること。
耐病害虫性: 1期作の病害虫が2期作に引き継がれるリスクがあるため、病気や害虫への抵抗力が強いこと 。
登熟期間: 2回目の収穫が地域の気候(霜が降りる時期など)に間に合うよう、生育期間が長すぎないこと。
注意点:2期米の品質について
品種や栽培条件にもよりますが、2期米は1期米と比べてデンプンの性質が変化し、粘りが少なく硬めの食感になる傾向があるという研究報告もあります 。
そのため、再生二期作を導入する際は、1期米と2期米で用途を分ける(例:1期米は主食用、2期米は加工用など)といった戦略も考えられます。
現在のところ、再生二期作の品種選びはまだ発展途上であり、地域の気候や土壌に合わせた試験的な栽培を通じて最適な品種を選定することが重要です 。
再生二期作に関するQ&A
- Qなぜ今、注目されているのですか?
- A
- Qどんなメリットがありますか?
- A
- Qデメリットや注意点はありますか?
- A
- Qどんなお米の品種が向いていますか?
- A
- Q始めるには、何か特別なことが必要ですか?
- A
- Qどんな地域でもできますか?
- A
温暖な西日本などの地域が向いていますが、温暖化の影響で関東などでも導入が始まっています 。ただし、寒冷地では2回目の収穫時期に気温が下がり、収量が大きく減るリスクがあるため慎重な判断が必要です 。
- Q2回目のお米の味は落ちませんか?
- A
- Q従来の「二期作」や「二毛作」とは何が違うのですか?
- A
「従来の二期作」は2回田植えをします。「二毛作」は米と麦など違う作物を育てます。再生二期作は、同じイネを田植え1回で2回収穫する点が大きな違いです。
- Q結局、再生二期作は「やるべき」なのでしょうか?
- A
まとめ:再生二期作とは?メリット・デメリットから始め方まで
本記事では、1回の田植えで2度の収穫を目指す「再生二期作」について、その仕組みからメリット・デメリット、そして具体的な始め方までを解説しました。
再生二期作は、育苗や田植えの手間を省きながら収穫量を増やせるため、コスト削減と収入向上を両立できる可能性を秘めた画期的な栽培技術です 。また、地球温暖化によって長くなった生育期間を逆に利用できる点も大きな魅力です 。
一方で、地力の低下や病害虫リスクの増加、2期目の収量・品質が不安定になりやすいといったデメリットも存在します 。成功のためには、品種選びや「高刈り」といった栽培技術、そして堆肥の投入などの土壌管理が欠かせません。
大きなメリットと乗り越えるべき課題の両方がある再生二期作ですが、将来の持続可能な稲作を実現するための重要な選択肢の一つであることは間違いありません 。



