中国で公開された映画「731」が、今、大きな議論を呼んでいます。
政府主導の「抗日戦勝80周年」記念作品として鳴り物入りで登場したこの映画は、本来、愛国心を鼓舞し、日本の戦争犯罪を訴えることを目的としていたはずです。
しかし、蓋を開けてみれば、観客からは「駄作」「犠牲者への冒涜」といった辛辣な酷評が相次ぎ、インターネット上では炎上状態となっています。
なぜこの映画は、これほどまでに批判されているのでしょうか?
この記事では、映画「731」が酷評される根本的な理由と、特に観客が問題視する「史実との違い」に焦点を当て、具体的にどこが荒唐無稽な描写だったのかを詳しく解説していきます。
プロパガンダ映画として制作されたはずが、なぜ失敗に終わってしまったのか、その背景と中国国内の反応についても深掘りし、皆さんの疑問に答えていきます。
【中国】731部隊映画に酷評!どこが史実と違うのか?

映画「731」が酷評される理由とは?
映画「731」がなぜ「駄作」「犠牲者への冒涜」とまで言われるのか、その根本的な理由には、いくつかの点が挙げられます。
まず、深刻な歴史的題材を軽んじるような演出が多々見られたことです。
旧日本軍の731部隊による人体実験という、極めて重く、悲劇的な歴史を扱っているにもかかわらず、映画全体に漂うリアリティの欠如や、時にコミカルとも取れる描写が、多くの観客の反感を呼びました。
例えば、実際に映画を鑑賞した中国の若者からは、「まるでB級ホラー映画を見ているようだった」「この題材で笑いを取ろうとしているのかと疑った」といった声が上がっています。
次に、愛国心に訴えかけるはずが、逆に反感を買っている状況です。
政府は、この映画を通じて国民の愛国心を高め、日本の戦争責任を再認識させることを期待していたでしょう。
しかし、史実に基づかない過剰な演出や、ステレオタイプな日本兵の描写は、多くの観客にとって「歴史を歪曲している」と映り、かえって「薄っぺらい愛国心」を押し付けられていると感じさせてしまいました。
結果として、愛国心どころか、歴史への冒涜だと捉えられてしまったのです。
さらに、期待値が高かった分、失望が大きかった背景も無視できません。
「抗日戦勝80周年」記念作品として、大規模な宣伝が行われ、多くの国民が期待を寄せていました。
著名な監督や俳優が参加しているとの情報もあり、歴史を深く描き出す骨太な作品になるだろうという事前評価が高かった分、実際に蓋を開けてみれば、その期待を大きく裏切る内容に、観客の失望は計り知れないものとなりました。
この「期待と現実のギャップ」が、酷評が殺到する大きな要因の一つと言えるでしょう。
【本題】史実と違う3つの荒唐無稽な描写
それでは、検索意図の核となる「どこが史実と違うのか」について、具体的に映画のシーンを挙げながら解説していきましょう。
特に問題視されているのは、以下の3つの荒唐無稽な描写です。
① あり得ない「おいらん道中」
映画の中で、収容所内で日本の遊郭を模した「おいらん道中」が行われるシーンが登場します。
これは観客に大きな衝撃を与え、「歴史の軽視」として最も批判された描写の一つです。
旧日本軍の部隊が秘密裏に行っていた人体実験施設である731部隊の収容所内で、日本の伝統的な遊女文化である「おいらん道中」が堂々と行われるなど、史実としてあり得るはずがありません。
この描写は、歴史的な背景や当時の状況を完全に無視しており、単なる日本文化の記号的な利用に過ぎません。
観客からは、「一体何を表現したかったのか理解不能」「深刻な場所でこんな演出をするなんて、犠牲者への冒涜だ」といった怒りの声が上がっています。
歴史の悲劇を扱っているにもかかわらず、こうした非現実的なシーンを挿入することで、映画全体のリアリティと信頼性が著しく損なわれています。
② ふんどし姿の日本兵
映画に登場する日本兵の描写も、観客から強い違和感を抱かれています。
特に批判の的となっているのが、「必勝」のハチマキを巻き、ふんどし姿で登場する日本兵の姿です。
この描写は、まるで日本の漫画やアニメに登場するようなステレオタイプな表現であり、歴史のリアリティを著しく損なっています。
実際の731部隊の兵士が、公然とふんどし姿で行動していたという歴史的事実は存在しません。
このような描写は、過去の戦争映画でありがちな「日本兵=コミカルで滑稽な存在」という矮小化されたイメージを助長するものであり、深刻な歴史的題材を扱う映画としては不適切です。
「まるで喜劇映画を見ているようだった」「真剣な題材なのに、なぜこんな描写を入れるのか」という批判が、中国のネット上では多数見受けられます。
この描写は、歴史の事実に基づかない安易なキャラクター造形として、観客の失望を招きました。
③ 存在しない女性幹部兵士
映画「731」では、史実ではあり得なかった女性の幹部兵士が登場します。
これもまた、歴史的事実に基づいた物語としての信頼性を失わせる大きな要因となりました。
当時の旧日本軍において、731部隊のような特殊な組織で女性が幹部兵士として指揮を執っていたという記録は一切ありません。
この描写は、現代のジェンダーバランスに配慮したかのような、あるいは単に物語上の都合で追加されたキャラクターであると考えられますが、それが歴史的事実と乖離している点が問題視されています。
歴史をテーマにした映画である以上、登場人物の役割や設定は、可能な限り史実に忠実であるべきです。
このような創作性の高いキャラクターが登場することで、映画全体が「フィクション」として見なされ、観客は「これは真実ではない」という疑念を抱いてしまいます。
結果として、映画が伝えようとするメッセージや歴史的意義が薄れてしまい、プロパガンダとしての効果も失われてしまうのです。
なぜプロパガンダ映画が失敗したのか?制作の背景
この映画がどのようにして作られ、なぜ観客の意図とずれてしまったのかを深掘りしてみましょう。
そこには、中国政府の思惑と、それが観客の評価と乖離してしまった背景が見えてきます。
政府の思惑:「抗日戦勝80周年」記念作品
映画「731」は、2020年の「抗日戦勝80周年」を記念して企画された作品です。
これは、習近平政権や中国共産党宣伝部が深く関与した**「国策映画」としての側面**が非常に強いことを意味します。
政府は、この映画を通じて、日本の戦争犯罪を国内外に再認識させるとともに、中国共産党の指導の下で抗日戦争に勝利したという歴史観を国民に再確認させる狙いがあったと推測されます。
そのため、製作資金も潤沢に投入され、大規模な宣伝活動が展開されました。
「抗日ドラマ」と呼ばれるジャンルは、中国では非常に人気があり、政府が国民の愛国心を高める上で重要なツールとされています。
この「731」も、その成功例の一つとなるはずでした。
官製メディアの絶賛と観客の評価の乖離
しかし、この政府の思惑とは裏腹に、観客の評価は非常に厳しいものとなりました。
中国の官製メディアは、映画の公開前から「感動を呼ぶ傑作」「歴史の真実を伝える」と盛んに絶賛し、国民に鑑賞を促しました。
例えば、新華社通信や人民日報といった主要メディアは、映画の内容を高く評価し、その歴史的意義を強調する記事を連日掲載していました。
しかし、映画口コミサイト「豆瓣(Douban)」では、公開直後から酷評が殺到し、評価は急落しました。
豆瓣の評価システムは、観客が自由に星を付け、コメントを書き込めるため、より率直な意見が反映されやすい傾向にあります。
官製メディアが「感動を呼ぶ」と絶賛する一方で、豆瓣では「期待外れ」「歴史への冒涜」といったコメントが並ぶという、まさに評価の乖離が浮き彫りになりました。
これは、政府が国民に伝えたいメッセージと、国民が実際に求めているものが異なっていたことを示唆しています。
観客は、単なるプロパガンダではなく、歴史の真実と人間の尊厳を深く描いた作品を求めていたと言えるでしょう。
中国ネット上の反応と今後の影響
実際にどのような批判の声が上がっているのでしょうか。
中国のインターネット上には、映画「731」に対する辛辣なコメントが溢れています。
具体的な批判コメントとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 「これは愛国心を食い物にした映画だ。厳粛な歴史を喜劇に矮小化している」
- 「731部隊の悲劇を、こんなふざけた描写で再現するなんて、犠牲者たちがあまりにもかわいそうだ」
- 「政府がカネをかけて作った国策映画がこれか。国民の歴史に対する真剣な思いを理解していない」
- 「見るに堪えない駄作。日本の戦争犯罪を訴えるどころか、逆に茶化しているとしか思えない」
- 「史実に基づかない描写が多すぎて、もはやフィクションとしか思えない。これではプロパガンダにもならない」
これらのコメントからもわかるように、観客は単に「反日」の感情を煽るだけでなく、歴史の真実性や作品としての質を強く求めていることが伺えます。
特に、731部隊という極めてデリケートで悲惨な歴史を扱っているだけに、その描写の軽薄さに大きな怒りを覚えているようです。
悪評が広まり、当初期待されていた興行収入も伸び悩んでいます。
映画公開は、中国の大型連休である国慶節(建国記念日)を控えた時期であり、本来であれば多くの観客動員が見込まれていました。
しかし、悪評がSNSなどを通じて瞬く間に拡散されたことで、観客は劇場から遠のき、国慶節の大型連休を前に興行収入の伸びが危ぶまれている現状です。
一部の映画館では、上映回数を大幅に減らす動きも見られていると報じられています。
これは、中国政府が主導するプロパガンダ映画が、必ずしも国民の支持を得られるわけではないという現実を浮き彫りにしています。
今後は、政府がこのような国民の反応をどのように受け止めるのか、そして今後の国策映画の制作方針にどのような影響を与えるのかが注目されます。
まとめ【中国】731部隊映画に酷評!どこが史実と違うのか?
映画「731」は、旧日本軍の731部隊による人体実験という、極めて重く悲劇的な歴史を題材にしながらも、その描写が史実を軽視した非現実的な演出に終始したことで、プロパガンダ映画としても失敗に終わってしまいました。
「おいらん道中」や「ふんどし姿の日本兵」、さらには「存在しない女性幹部兵士」といった荒唐無稽な描写は、観客の歴史に対する真摯な思いを裏切り、結果として大きな怒りを買ってしまったのです。
政府は「抗日戦勝80周年」記念作品として、国民の愛国心を高めることを期待しましたが、官製メディアの絶賛とは裏腹に、観客は「駄作」「犠牲者への冒涜」と酷評しました。
歴史の悲劇をエンターテイメントとして消費しようとした結果、本来ターゲットとすべき「愛国者」からもそっぽを向かれ、興行収入も伸び悩むという皮肉な結果となっています。
この映画の失敗は、単なるプロパガンダではなく、歴史の真実に基づいた質の高い作品こそが、国民の心に響くということを示しているのではないでしょうか。
歴史の悲劇を風化させないためにも、今後、中国がどのような歴史映画を制作していくのか、その動向が注目されます。
この記事が、映画「731」に関する皆さんの疑問を解消する一助となれば幸いです。


