2025年10月、化学の分野で世界最高の栄誉であるノーベル化学賞に、日本の研究者が輝きました。
京都大学の北川進(きたがわ すすむ)特別教授です。
この歴史的な受賞の理由は、「多孔性金属錯体(たこうせいきんぞくさくたい)PCP/MOF)」と呼ばれる、まるで分子レベルのジャングルジムのような、特殊な物質の設計と合成における功績です。
「多孔性金属錯体って何?」
「なぜそれがノーベル賞に値するの?」
「私たちの生活や、地球の未来とどう関係があるの?」
この記事では、そんな疑問について広く情報を集めました。
多孔性金属錯体の基本的な仕組みから、地球温暖化対策の切り札として期待されるCO2削減への応用、さらには私たちの暮らしを豊かにする驚きの実用例、そして偉大な科学者である北川進氏の歩みまで、分かりやすく掘り下げていきます。
【ノーベル賞】北川進氏の多孔性金属錯体とは?CO2削減に応用可能?
Youtube動画タイトル:【ノーベル化学賞】京都大学の北川進氏が受賞
【速報】北川進氏がノーベル化学賞を受賞

2025年10月8日、スウェーデン王立科学アカデミーは、同年のノーベル化学賞を京都大学高等研究院の北川進特別教授、およびこの分野の発展に大きく貢献した他の2名の研究者に授与すると発表しました。
※京都大学の北川進特別教授(74)、豪メルボルン大学のリチャード・ロブソン教授(88)、米カリフォルニア大バークリー校のオマー・M・ヤギー教授(60)
今回の受賞は、日本人としては30人目、化学賞としては9人目となる快挙です。
授賞理由は「多孔性金属錯体(PCP/MOF)の設計と合成」における先駆的な業績が評価されたものです。
この受賞は、長年にわたる地道な基礎研究が、地球規模の課題解決に繋がる革新的な材料を生み出したことを、世界が認めた証と言えるでしょう。
多孔性金属錯体(PCP/MOF)とは?分かりやすく解説
多孔性金属錯体は、英語では「Porous Coordination Polymer (PCP)」や「Metal-Organic Framework (MOF)」と呼ばれます。少し難しく聞こえますが、構造は意外とシンプルです。
一言でいえば、「金属」と「有機物」を組み合わせて作った、無数のミクロな穴を持つ物質です。
- 金属イオン:ジャングルジムの「結び目(ノード)」の役割
- 有機物(有機配位子):結び目と結び目を繋ぐ「棒(リンカー)」の役割
これらをレゴブロックのように規則正しく組み立てることで、内部にトンネルのような空間(細孔)が無数に空いた、安定した結晶構造が生まれます。
(画像出典: 科学技術振興機構 JST)
画期的な点はどこにあるのでしょうか?
それは、穴の大きさ、形、そして性質を、目的の分子に合わせて自由に設計(オーダーメイド)できる点にあります。
これまで気体の吸着などには「活性炭」や「ゼオライト」といった多孔性材料が使われてきました。これらも素晴らしい材料ですが、穴の大きさが不揃いであったり、設計の自由度が低いという課題がありました。
例えるなら、活性炭が「大小さまざまな石ころが詰まった箱」だとすれば、多孔性金属錯体は「特定の形のボールだけがピッタリはまるポケットが無数に並んだ箱」です。
この「狙った分子だけを捕まえる」という圧倒的に高い選択性が、世界中の研究者を驚かせ、様々な応用への道を拓いたのです。
参考情報: 北川進特別教授が拠点長を務める京都大学高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)のウェブサイトでは、研究内容が紹介されています。 ≫ 京都大学 iCeMS
多孔性金属錯体はCO2削減の切り札になる?
本記事のタイトルにもあるように、多孔性金属錯体に最も大きな期待が寄せられている分野の一つが、地球温暖化対策、特に二酸化炭素(CO2)の分離・回収です。
火力発電所や工場の排ガスには、CO2だけでなく窒素など様々な気体が混ざっています。 この中からCO2だけを効率よく捕まえることができれば、大気中への放出を大幅に減らすことができます。
多孔性金属錯体は、まさにこの課題を解決する可能性を秘めています。 CO2分子にピッタリ合うように穴の大きさや性質を設計することで、まるで磁石のようにCO2だけを選択的に吸着させることが可能なのです。
大気中のCO2を回収する
さらに期待されているのが、大気中から直接CO2を回収する「直接空気回収(Direct Air Capture: DAC)」技術への応用です。
大気中のCO2濃度は0.04%程度と非常に薄いため、回収は極めて困難でした。 しかし、優れた吸着性能を持つ多孔性金属錯体を使えば、この薄いCO2を効率的に集める新しい道が開けるかもしれません。
回収されたCO2は、地中深くに貯留されたり、あるいは化学反応によってプラスチックや燃料といった有用な物質に変換(カーボンリサイクル)されたりすることで、温暖化対策に大きく貢献すると考えられています。
CO2削減だけじゃない!私たちの生活を変える応用例
多孔性金属錯体の可能性は、CO2削減だけにとどまりません。
その「分子を自在に操る」能力は、私たちの生活を様々な場面で豊かにしてくれる可能性を秘めています。
1. クリーンエネルギーの貯蔵と輸送
次世代エネルギーとして注目される水素は、非常に軽くて体積が大きいため、安全にたくさん運ぶのが難しいという課題がありました。
多孔性金属錯体の微細な穴に水素分子を高密度で貯蔵することで、現在の高圧タンクよりもはるかに安全かつ効率的に水素を貯蔵・輸送できる技術が研究されています。これは、水素自動車(FCV)の普及を加速させるかもしれません。
2. 食品の鮮度保持
野菜や果物は、熟成を進める「エチレンガス」を自ら放出します。
これが腐敗の原因になります。多孔性金属錯体を使ってエチレンガスだけを選択的に除去できれば、輸送中や家庭での食品ロスを劇的に減らし、長期間にわたって鮮度を保つことが可能になります。
3. 化学プロセスを効率化する「触媒」
化学工場では、特定の物質だけを効率よく作り出すために「触媒」が使われます。
多孔性金属錯体の穴の中で化学反応を起こすことで、不要な副産物を生み出さず、目的の物質だけを省エネルギーで作ることが可能になります。
これは、医薬品や機能性材料の生産効率を飛躍的に向上させる可能性があります。
4. 高感度センサー
私たちの呼気には、病気の兆候となる特定のガスがごく微量に含まれていることがあります。多孔性金属錯体は、こうした特定の分子を微量でも検知する高感度センサーに応用できます。
これにより、呼気を調べるだけで病気の早期発見に繋がる、といった未来の医療技術も期待されています。
5. 空気中から水を取り出す
これは少し未来の話かもしれませんが、空気中の水蒸気だけを効率的に集める性質を利用して、砂漠のような乾燥地帯でも飲み水を確保する、といった壮大な応用も研究されています。
受賞者 北川進特別教授の経歴と功績
今回、栄えあるノーベル化学賞を受賞された北川進氏は、いかなる研究の道を歩まれてきたのでしょうか。
出身・学歴
- 出身:京都府(公表情報では京都市の出身とされることもあります)
- 1974年:京都大学工学部石油化学科 卒業
- 1979年:京都大学大学院工学研究科博士課程 修了(工学博士)
主な職歴
- 1979年:近畿大学(理工系)に着任(初任的立場、助手等と推定)
- 1992年:東京都立大学(理学部/無機化学分野) 教授
- 1998年:京都大学大学院工学研究科 教授
- 2017年以降:京都大学 高等研究院 特別教授(受賞時もその称号)
研究領域・功績
北川氏は長年にわたり一貫して、多孔性金属–有機構造体(MOF/配位高分子, PCP) の創出とその機能開拓に取り組んでこられました。
特に、金属イオンと有機配位子を結合させて、ナノスケールの規則的な孔を数多く持つ構造を設計・合成し、その孔に気体を吸着・放出できる性質を実証された点は、MOF 分野の礎を築くものでした。
この研究は、気体貯蔵、分離、触媒応用など多方面に展開されつつあり、環境・エネルギー対応材料の発展に大きな影響を与えています。
主な受賞歴
(以下は主なものを抜粋・代表例として)
- 2002年:日本化学会学術賞
- 2007年:日本錯体化学会賞
- 2009年:日本化学会賞/フンボルト賞
- 2010年:トムソン・ロイター引用栄誉賞
- 2011年:紫綬褒章
- 2013年:RSC ド・ジェンヌ賞、江崎玲於奈賞 など
- 2016年:日本学士院賞
- 2017年:藤原賞、Solvay 賞 等
- 2019年:フランス化学会グランプリ、Emanuel Merck Lectureship 等
今回のノーベル化学賞受賞は、これらの栄誉ある受賞歴を背景に、MOF 分野における長年の努力と功績が世界的に評価された結果といえるでしょう。
まとめ【ノーベル賞】北川進氏の多孔性金属錯体とは?CO2削減に応用可能?
北川進特別教授のノーベル化学賞受賞という歴史的な快挙は、私たちに科学の持つ大きな可能性を改めて示してくれました。
受賞理由となった「多孔性金属錯体(PCP/MOF)」は、まさに“魔法のスポンジ”とも言える革新的な材料です。
その最大の特徴である「分子レベルでの自由な設計」によって、
- 地球温暖化対策の切り札となるCO2分離・回収
- 水素エネルギー社会を実現するガス貯蔵
- 食品ロスを削減する鮮度保持技術
- 省エネ・高効率なものづくりを可能にする触媒
など、エネルギー、環境、医療、食品といった非常に幅広い分野で、私たちの未来をより良く変えていく力を秘めています。
もちろん、実用化に向けては、コストや大量生産の技術など、乗り越えるべき課題も残っています。 しかし、今回の受賞を機に、世界中で研究開発がさらに加速することは間違いありません。
日本の基礎研究から生まれたこの素晴らしい技術が、今後どのように社会に実装され、私たちの生活や地球の未来に貢献していくのか、大きな期待を持って見守りたいと思います。


