この記事では、世界最高峰のミステリー文学賞であるイギリスの「ダガー賞」翻訳部門を日本人として初めて受賞した王谷晶さんについて、その経歴と『ババヤガの夜』が評価された理由を詳しく解説します。
王谷晶さんは1981年東京都生まれ。ノベライズ作品でデビュー後、2018年の短篇集『完璧じゃない、あたしたち』で注目を集め、2020年に刊行した『ババヤガの夜』は日本推理作家協会賞の候補にもなりました。
『ババヤガの夜』は、暴力を生きがいとする女性が暴力団会長の娘の護衛を務めるという独特のストーリーで、女性同士の連帯や社会の暗部を描いた点が高く評価されています。
英国推理作家協会は「漫画のような大胆な描写と、登場人物の人間性、容赦のない暴力描写が印象的」と受賞理由を述べています。
王谷晶さんの作家としての歩みと、世界に認められた作品の魅力を、この記事でわかりやすくお伝えします。
日本文学界に歴史的快挙!王谷晶さんがダガー賞を受賞
日本人作品として史上初
2025年7月4日早朝、日本文学界に衝撃的なニュースが飛び込んできました。
英国推理作家協会が発表した世界最高峰のミステリー文学賞「ダガー賞」の翻訳部門で、王谷晶さんの「ババヤガの夜」が受賞!
これは日本人作品として史上初の快挙となり、まさに歴史的な瞬間となりました。
ダガー賞とは
ダガー賞は1955年に創設された犯罪・ミステリー分野の文学賞で、米国のエドガー賞と並び、ミステリー文学賞として世界的な知名度を誇ります。
翻訳部門は2006年に始まり、過去に横山秀夫さんや東野圭吾さん、伊坂幸太郎さんの作品が最終選考に残ったことがありますが、受賞には至っていませんでした。
王谷晶さんってどんな作家?詳しい経歴を解説

英国推理作家協会(CWA)が主催する世界最高峰のミステリー文学賞「ダガー賞」の翻訳部門で、王谷晶さんの『ババヤガの夜』(英訳:サム・ベット、Faber & Faber刊)が受賞。
これは日本人作家として初、アジアの作家としても史上2人目という快挙です。
同賞は1955年創設、翻訳部門は2006年から設けられ、これまで横山秀夫『64』や東野圭吾『新参者』などが最終候補に選ばれてきましたが、受賞には至っていませんでした。
今回の『ババヤガの夜』は、2020年に日本で刊行され、累計発行部数は3万8000部を突破。
2024年9月に英国で出版され、アメリカや韓国、今後はドイツやイタリアなどでも刊行予定です。
また、2025年の最終候補には柚木麻子さんの『BUTTER』も名を連ね、日本ミステリーの国際的評価の高まりを象徴する出来事となりました。
基本プロフィール
王谷晶(おうたに あきら)さんは1981年東京都生まれの44歳です。
現在は小説家・エッセイストとして活動し、現代女性のリアルな声を描く作品で多くの読者から支持を集めています。
学歴と成長期
王谷さんの学歴について詳しい情報は公開されていませんが、小学校時代は登校を拒むことが多く、出席日数は半分程度だったと明かしています。
学校に行かない日は自宅で読書に専念する生活を送っていました。
中学校時代も「卒業に必要な最低限の出席」という状況で、高校に進学した後も授業への参加をほとんど避け、図書館で書籍を借りて帰宅するという独特な学校生活を送っていたそうです。
このような読書中心の生活が、後の作家としての素養を育んだのかもしれません。
作家デビューまでの道のり
社会人としての王谷さんの経歴は実に多彩で、アルバイトやゲームシナリオライターなど様々な職業を経験しています。
20代にはうつ病を患い、その闘病体験が作品にリアリティと深みをもたらしています。
文学界での歩み
2012年に「猛獣使いと王子様」のノベライズ作品でデビューした王谷さんは、その後着実に作品を発表し続けてきました。
主な作品歴:
- 『猛獣使いと王子様 金色の笛と緑の炎』(2012年)
- 『あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト』(2015年)
- 『探偵小説(ミステリー)には向かない探偵』(2016年)
- 『完璧じゃない、あたしたち』(2018年)
- 『ババヤガの夜』(2020年)
2021年には『ババヤガの夜』で第74回日本推理作家協会賞長編部門の最終候補に選出されるなど、国内でも高い評価を得てきました。
受賞作品『ババヤガの夜』とは?
「ババヤガの夜」王谷晶(著) 河出文庫 ≫Amazonで見る
あらすじ
「ババヤガの夜」は、暴力を唯一の趣味とする新道依子が、腕を買われて暴力団会長の一人娘を護衛することになる物語です。
物語の主人公は新道依子(しんどうよりこ)、暴力を唯一の趣味とする22歳の女性です。
彼女は新宿でチンピラと大立ち回りをした末、関東有数の暴力団「内樹會(ないきかい)」の屋敷に拉致されます。そこで彼女は、組長の一人娘・尚子(しょうこ)のボディーガード兼運転手に抜擢され、強制的に組員となります。
依子は幼い頃から祖父に厳しい鍛錬を受け、喧嘩に天才的な才能を持つ女性。彼女の生き方は「ババヤガ」――スラヴ民話に登場する鬼婆――に強く影響を受けています。
一方、尚子はお嬢様育ちで、父親からの虐待やサディストな婚約者との政略結婚に苦しむ繊細な女性。最初は正反対の二人ですが、互いの心の傷や苦しみを知ることで、友情や愛情とは異なる、深い絆が芽生えていきます。
物語は、依子が組の男に襲われそうになった際、尚子に救われることで大きく動き出します。二人は男社会の暴力や抑圧から逃れるため、手を取り合って逃走する決意を固めます。
ラストには、読者を驚かせるどんでん返しも用意されており、単なるハードボイルドやシスターフッドの枠を超えた、現代的な女性の連帯と解放を描いた作品です。
「ババヤガ」というタイトルは、依子の幼少期の思い出と重なり、物語全体の象徴的な存在となっています。暴力と血にまみれた世界で、女性たちが自らの運命を切り開いていく姿が、圧倒的な迫力とともに描かれています。
作品の特徴とテーマ
「ババヤガの夜」は、暴力を生きがいとする女性・新道依子と、新道が護衛することになった暴力団会長の娘との「名前のつけられない関係性」を描いた物語で、アクションとともに女性同士の連帯やミソジニー=女性蔑視などのテーマが描かれています。
王谷さんは「女性を主役にして何か描こうと思ったら日本でジャンルがどうであれ、ミソジニーが避けられない。
リアルに描こうと思ったら。文化とか国を超えて、特に女性の読者とかとは『あるある』が共有できたのかなと思います」と語っています。
『ババヤガの夜』がダガー賞を受賞した理由

ダガー賞受賞理由
独創性の高さが最大の評価ポイントです。審査委員長のマキシム・ジャクボウスキ氏は「マンガと北野武映画の融合のようで、LGBTの要素も含む。西欧だけでなく現代日本でも類を見ない独自性と勢いがある」と絶賛しました。
暴力的な描写と静かな感情描写が同居し、単なるミステリーやアクションに留まらず、人間ドラマや社会的テーマを深く扱っている点が高く評価されました。
物語の中で「ラベルをつけない」関係性を描くことで、読者に多様な解釈の余地を残し、普遍的な共感を呼び起こしています。
英国での出版時には「むだのない展開」「独創的で奇妙なラブストーリー」との評価もあり、国際的な文学賞にふさわしい作品と認められました。
海外での高い評価
海外での高い評価:『ババヤガの夜』英訳版の快挙と具体的な受賞歴・選出実績
王谷晶の『ババヤガの夜』英訳版(The Night of Baba Yaga)は、サム・ベットによる翻訳で2024年9月12日、イギリスのFaber & Faberから刊行されました。刊行直後からイギリスやアメリカを中心に高い評価を集め、数々の権威ある賞やメディアで注目されています。
具体的な受賞・選出歴(2024~2025年)
| 受賞・選出名 | 年度・時期 | 内容・評価ポイント |
|---|---|---|
| 英国推理作家協会 ダガー賞 翻訳部門(CWA Dagger Prize for Crime Fiction in Translation) | 2025年7月 | 日本人初の受賞。審査員は「独創性にあふれ、奇妙で素晴らしいラブストーリー」と絶賛。 |
| CrimeFest スペクセイバーズ新人犯罪小説賞(Specsavers Debut Crime Novel Award) | 2025年5月 | 英国最大級のミステリーイベントで最優秀新人賞を受賞。審査員は「従来の日本像を覆すほど衝撃的で一気読み必至」とコメント。 |
| クライム・フィクション・ラバー 最優秀翻訳賞(編集者選) | 2025年 | 「女性主導型リベンジスリラーの極致」と評され、同サイトの編集部が選ぶ最優秀翻訳賞を獲得。 |
| テレグラフ紙「Thriller of the Year」 | 2024年 | 英国の有力紙が年間ベストスリラーに選出。「怒りとユーモア、興奮が詰まった傑作」と紹介。 |
| ロサンゼルス・タイムズ「この夏読むべきミステリー5冊」 | 2024年夏 | アメリカの主要紙が「今夏必読のミステリー」として推薦。国際的な注目度の高さを示す具体例。 |
英語圏での反響と具体例
書評サイトや書店でも絶賛
Crime Fiction Loverでは「女性主導型リベンジスリラーの極致」と評され、The Timesでは「激しく、ユーモラスで、刺激的」と紹介されています。
読者からも高評価
SNSや読書コミュニティでは「『キル・ビル』や『ジョン・ウィック』を彷彿とさせるバイオレンスとスピード感」「短いがインパクト抜群」などの感想が多く寄せられています6。
作品の特徴と評価理由
ジャンルの枠を超えた独自性
1970年代の日本のヤクザ社会を舞台に、暴力と連帯、ジェンダーやクィア要素を融合した物語が、従来のミステリーや犯罪小説の常識を覆すと評価されています。
翻訳者サム・ベットの手腕
サム・ベットによる英訳は「原作のリズムや緊張感を見事に再現」と専門家からも高く評価されています。
『ババヤガの夜』英訳版は、2024年秋の刊行以来、国際的な文学賞を次々と受賞し、主要メディアや書評サイトでも絶賛されるなど、現代日本文学の新たな金字塔として世界的な注目を集めています。
海外メディアの絶賛コメント

『ババヤガの夜』英訳版は、2024年9月の刊行以降、欧米の主要メディアや書評サイトで圧倒的な称賛を集めています。以下、最新の具体的な絶賛コメントとその背景を紹介します。
海外主要メディアの絶賛コメント
| メディア名 | コメント(要約・抜粋) | 評価のポイント |
|---|---|---|
| The Times(英国) | 「太陽神経叩き込み型のマーシャルアーツ・スリラーでありながら、切ないクィア・ラブストーリーでもある。王谷晶の簡潔で緻密なプロットは暴力的かつ越境的な驚異。終盤のパワーに圧倒され、余韻が残る。」 | アクションと感情の両立、物語の独自性 |
| The Guardian(英国) | 「激しい暴力と素晴らしい優しさが交互に訪れる。」 | ハードなバイオレンスと繊細な感情描写の融合 |
| Los Angeles Times(米国) | 「この型破りなスリラーは映画的な格闘シーンと、感情的な気づきや脆さが随所に織り込まれ、ページをめくる手が止まらないグリットでシュールな傑作。」 | 映画的な迫力と感情表現、独自の世界観 |
| The Seattle Times(米国) | 「喜びに満ちた攻撃性と痛ましいほどの優しさ。社会の枠組みを超えて自己の境界を再定義し、暴力・愛・家族・名誉を大胆に問い直す。」 | 社会的テーマとキャラクターの深み |
| Ms. Magazine(米国) | 「怒り、ユーモア、スリル満載。」 | 感情の多様性とエンターテイメント性 |
| The Japan Times(英字紙) | 「待ち望まれていたクィア・ヤクザ・スリラー!獰猛な戦いと秘めた優しさが同居し、読者を最後まで引き込む。」 | クィア要素とアクションの新しさ |
具体例・読者の反応
- 「『キル・ビル』や『ジョン・ウィック』を思わせるバイオレンスとスピード感。だが同時に、女性同士の絆や社会への問いかけが深い」とSNSやGoodreadsで高評価。
- 「女性エンパワーメントの物語」「誰もがプリンセスになれるわけじゃない。ババヤガとして生まれる人もいる」といった共感の声も多数。
このように、『ババヤガの夜』は単なるバイオレンス小説にとどまらず、社会的・ジェンダー的テーマや感情表現の豊かさが、欧米の批評家・読者からも絶賛されています。
審査員が評価したポイント
審査員は「この物語は独創性に輝き、奇妙ながらも素晴らしいラブストーリーを届けている」と講評しました。
ダガー賞翻訳部門のマキシム・ジャクボウスキ審査委員長は「マンガ文化、ヤクザ映画、北野武、そして強いLGBTQの要素を融合させていました。その全体の組み合わせがとても独創的でした」と評価しています。
日本文化と普遍的テーマの融合
受賞理由として、以下の点が高く評価されたと考えられます:
- 日本独特の文化要素:ヤクザ映画、マンガ文化の影響
- 現代的なテーマ:LGBTQ要素、女性同士の連帯
- 普遍的な魅力:文化を超えて共感できる人間関係
- 独創的な設定:暴力を趣味とする女性主人公という斬新さ
ダガー賞の権威と今回の受賞の意義

今回の受賞の歴史的意義
今回の王谷さんの受賞は日本人として史上初、アジアの作家としても史上2人目の快挙となります。これは日本文学が世界で認められた歴史的な瞬間と言えるでしょう。
今年の最終候補には、イギリスで40万部以上の売り上げを誇る柚木麻子さんの小説「BUTTER」も選ばれるなど、日本人女性作家の快進撃が続いています。
王谷晶さんの受賞コメント
王谷さんは授賞式のスピーチで「とにかく驚いている」と感想を語りました。
また、以前のコメントでは「担当編集者と『ショートリストに入った際のコメントはどうしますか?』『いや、入らねえと思うのでいらんでしょう』というやりとりをしていたまさにその瞬間に情報が入ってきたので大変驚いております」と、受賞への驚きを率直に表現しています。
王谷晶さんの受賞が日本文学界に与える影響
王谷晶さんのダガー賞受賞は、単なる個人の栄誉を超えた大きな意義を持っています。
現代的なテーマと日本独特の文化要素を融合させた作品が世界で認められたことで、今後の日本文学の可能性を大きく広げる出来事となりました。
特に、女性作家によるLGBTQやジェンダー問題を扱った作品が国際的に評価されたことは、多様性を重視する現代社会において重要な意味を持ちます。
『ババヤガの夜』の日本国内での累計部数は3万8000部を突破しており(2025年7月4日現在)、今回の受賞を機にさらなる注目が集まることが予想されます。
王谷晶さんという才能豊かな作家が世界の舞台で輝いたこの瞬間は、日本文学史に刻まれる記念すべき出来事となったのです。
まとめ:【ダガー賞日本人初受賞!】王谷晶の経歴と『ババヤガの夜』受賞理由
この記事では、王谷晶さんが日本人として初めて「ダガー賞」翻訳部門を受賞した快挙と、その背景にある経歴、そして受賞作『ババヤガの夜』がなぜ世界で高く評価されたのかを詳しくご紹介しました。
王谷さんは2012年にノベライズ作品でデビューし、2020年発表の『ババヤガの夜』で日本推理作家協会賞の最終候補にも選出されるなど、着実に実力を積み重ねてきた作家です。
今回の受賞作は、暴力団社会を舞台に、暴力を生きがいとする女性と組長の娘が織りなす異色のバイオレンス・アクション小説として、英国推理作家協会や海外メディアから「独創的なキャラクター造形と緊張感あふれるストーリー展開」が高く評価されました。
今後、王谷さんの作品や日本ミステリーがさらに国際的な注目を集めることが期待されます。


