スマートフォンの買い替えや電気自動車(EV)の普及が進む中で、私たちの生活に欠かせないのが「レアアース」という存在です。
しかし、その供給の大部分を特定の国に依存している現状に、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。「もし輸入が止まったらどうなるのか」という懸念は、日本の産業界全体が抱える切実な悩みでもあります。
そんな中、日本の排他的経済水域(EEZ)内で膨大なレアアースが眠っていることが判明し、いよいよ実用化に向けた大きな一歩が踏み出されようとしています。
2026年、日本はついに「自給自足」の資源大国への道を歩み始めるのか、その真相に迫ります。
この記事では、試験採掘の具体的な日程や場所、関わる企業、そして最大の懸念点である採算性について詳しくお伝えします。
この記事でわかること
- 日本でのレアアース採掘がいつから、どの場所で始まるのか
- プロジェクトに参画している主要な企業と最新の技術力
- 国産レアアースの採算性と商業化に向けた具体的なハードル
- 中国依存からの脱却を目指す日本の経済安全保障の重要性
日本レアアース採掘の場所は南鳥島!いつから本格化し採算は取れる?
日本の命運を握る「レアアース泥」のプロジェクトが、いよいよ現実のものとして動き出しました。
今回の計画は、単なる研究レベルの話ではなく、産業構造を根本から変える可能性を秘めた国家プロジェクトです。まずは、いつ、どこで何が起きようとしているのか、その全体像を確認していきましょう。
2026年1月12日に始まる世界初の「試験採掘」とその意義
日本の資源自給に向けた歴史的な一歩となる「レアアース泥」の試験採掘が、2026年1月12日、いよいよ現実のものとなりました。
探査船は本日、南鳥島沖へと出航し、海底約6,000メートルという極限環境での掘削作業に挑むこととなります。これは、日本が長年追い続けてきた「資源安全保障」の確立に向けた、極めて重要な実証実験です。
今回の試験採掘は、2013年に東京大学の加藤・中村・安川研究室が発見した膨大な埋蔵量を、実際に「掘り出せるか」を確認するためのものです。
発見から10年以上の時を経て、ようやく商業化の可能性を問う段階にまで到達しました。この実験が成功すれば、日本は世界で唯一、環境負荷の低いクリーンなレアアース供給源を持つことになります。
海底6,000メートルという深海からの揚泥(泥を吸い上げること)は、世界でも類を見ない高難度の技術です。これまでは技術的な制約から困難とされてきましたが、日本の誇る深海探査技術が集結し、いよいよ実現の時を迎えました。
本日を起点として進むこの試験採掘は、2026年を日本の資源産業における「国産レアアース元年」として記憶に刻む第一歩となるでしょう。
採掘場所となる「南鳥島EEZ」の地理的特徴と埋蔵量
採掘の舞台となるのは、日本の最東端に位置する小笠原諸島の南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内です。
この海域の海底には、推定で約1,600万トンという驚異的な量のレアアース泥が堆積していることが判明しています。これは日本の年間消費量の数百年分に相当し、まさに「宝の山」が眠っている状態です。
南鳥島は、東京から約1,800kmも離れた孤島ですが、その周辺海域が持つポテンシャルは計り知れません。2016年には、コバルトやニッケルを豊富に含む「マンガンノジュール」の存在も確認されています。
特にコバルトについては、日本の年間消費量の約75年分が存在することが、2024年6月の日本財団による調査で明らかになりました。この海域が注目される最大の理由は、日本独自の管轄権が及ぶEEZ内であるという点です。
他国の干渉を受けることなく、日本が主導して資源開発を進められるメリットは極めて大きいと言えます。地政学的なリスクを回避し、安定したサプライチェーンを構築するための聖域とも呼べる場所なのです。
国産レアアース泥が「クリーン」と言われる科学的理由
中国などで採掘される陸上のレアアース鉱山とは異なり、南鳥島のレアアース泥には大きな特徴があります。それは、精錬の過程で深刻な環境汚染を引き起こす「放射性元素(トリウムなど)」がほぼ含まれていないという点です。
これは、レアアースを商業利用する上での致命的なコスト増と環境負荷を回避できることを意味します。陸上の鉱山では、レアアースを抽出する際に大量の有害廃棄物が発生し、その処理に莫大な費用がかかるのが一般的です。
これまで世界が中国産のレアアースに依存してきた背景には、こうした環境コストを肩代わりさせていた側面がありました。
しかし、日本の海底資源はもともと有害物質が少ないため、精錬プロセスを大幅に簡略化できる可能性があります。環境負荷の低さは、現代の「グリーントランスフォーメーション(GX)」の流れにも完全に合致しています。
EVや風力発電の部品を作るために環境を破壊しては本末転倒ですが、国産レアアースはこの矛盾を解消します。「クリーンな資源」というブランド価値は、今後グローバル市場においても強力な武器となるはずです。
採掘における「プロフィール表と最新スペック」
| 項目 | 詳細内容 |
| 対象資源 | レアアース泥、マンガンノジュール |
| 主要成分 | ネオジム、ジスプロシウム、コバルト、ニッケル |
| 推定埋蔵量 | レアアース泥:1,600万トン以上、マンガン:2.3億トン |
| 採掘深度 | 海底 約6,000メートル |
| 試験採掘開始日 | 2026年1月11日予定(1月12日に変更) |
| 研究開発主体 | 東京大学、日本財団、関係各企業 |
| 場所 | 南鳥島周辺 排他的経済水域(EEZ) |
レアアース採掘に参画する主要企業と日本の最新技術力
これほどの大規模な深海プロジェクトを成功させるには、一企業の手には負えません。
日本の重工業、商社、エンジニアリング企業がコンソーシアムを組み、それぞれの得意分野を融合させています。ここでは、実際にどのような企業が、どのような役割で動いているのかを詳しく見ていきましょう。
プロジェクトを支える「企業連合」の顔ぶれと役割
南鳥島周辺での海底資源開発には、日本のトップ企業が名を連ねています。
具体的には、海洋掘削技術に定評のあるIHIや、プラント建設のプロフェッショナルである東洋エンジニアリングなどが挙げられます。また、資源の運搬や供給網の構築においては、三井物産や住友商事といった総合商社の参画が期待されています。
これらの企業は、内閣府の主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などを通じて連携を深めてきました。海底6,000メートルから連続的に泥を吸い上げる「揚泥システム」の開発は、日本の技術力の結晶です。
一社の利益だけでなく、「オールジャパン」で資源自立を目指す姿勢が、このプロジェクトの大きな特徴となっています。
また、海底調査や実証試験の資金面では、日本財団が強力なバックアップを行っています。
2024年のマンガンノジュール調査においても、日本財団の委託を受けた調査チームが決定的な成果を上げました。国、大学、公益法人、民間企業が一体となった強力な体制が、この困難な挑戦を支えているのです。
世界最高峰!海底6,000メートルから「吸い上げる」独自の揚泥技術
今回のプロジェクトにおける最大の技術的障壁は、6,000メートルという気の遠くなるような深さです。
この深度は、エベレストの高さに匹敵する垂直距離を、管(パイプ)でつないで泥を運ぶことを意味します。この圧力に耐えうる素材の開発と、効率的に泥を吸い上げるポンプ技術が、成功の鍵を握っています。
日本の技術チームは、空気の浮力や水圧の差を利用した独自の「エアリフト方式」などを研究してきました。これは、パイプ内に空気を送り込み、その上昇気流によって泥を一緒に吸い上げるという画期的な手法です。
機械的な可動部を減らすことで、深海での故障リスクを最小限に抑えることが可能になります。
また、海底でレアアース濃度の高い層だけを正確に狙う、水中ドローン(ROV)の技術も飛躍的に進化しています。
無駄な泥を吸い上げず、効率的に高品質な資源だけを回収する技術は、後述する「採算性」にも直結します。日本の海洋土木技術は、今や世界をリードするレベルに達していると言っても過言ではありません。
選鉱・製錬プロセスの自動化とコスト削減の取り組み
海底から泥を揚げるだけでなく、その後の「選鉱(必要な成分を分けること)」も重要です。
レアアース泥は非常に細かい粒子であるため、効率的に分離するための特殊な技術が必要となります。東京大学の中村教授らの研究グループは、特定の薬品を使わずに遠心分離などで濃縮する手法を開発しています。
製錬についても、既存の陸上プラントを転用するだけでなく、海底資源専用の小型プラントの構想もあります。採掘現場の近くで一次加工を行うことで、輸送コストを劇的に下げようという試みです。
企業側も、AIを活用した自動化システムの導入により、人件費とエネルギー消費の削減を狙っています。技術革新は、資源そのものの価値を最大化するために必要不可欠な要素です。
かつては「夢物語」とされた深海資源が現実味を帯びてきたのは、こうした地道な技術の積み重ねがあったからです。
企業による技術の社会実装が進むことで、2030年代の商業化への道筋がより鮮明になっていくでしょう。
国産化への高いハードル「採算性」と経済安全保障の真実
技術的に可能であっても、ビジネスとして成り立つか(採算性)は別問題です。中国産の安価なレアアースに対抗し、いかにして「利益を出せる構造」を作るかが、今後の最大の焦点となります。
ここでは、コストの現状と、日本を取り巻く地政学的な状況を整理します。
「年間数100万トン」の泥が必要?商業化に向けたコスト計算
東京大学の中村教授の推計によると、日本の年間需要を満たすには、年間で数100万トンの泥を採取する必要があります。
日本の年間需要は約1万8,000トンですが、泥に含まれるレアアースの濃度を考慮すると、膨大な量を扱うことになります。これだけの規模を安定して稼働させるための運用コストは、依然として大きな課題です。
最大の懸念は、中国が戦略的にレアアースの価格を下げ、日本のプロジェクトの採算を悪化させる「価格攻勢」です。過去にも中国は、競合国の開発を阻むために市場価格を操作した前例があります。
これに対し、日本がいかにして価格競争力を持たせるか、あるいは「安全保障コスト」として国がどう支援するかが問われています。しかし、国産レアアースには「放射性廃棄物がほぼ出ない」という強みがあります。
陸上鉱山で発生する膨大な環境対策費用を考慮すれば、トータルコストでは十分に勝算があるという見方もあります。単純な市場価格の比較だけでなく、環境価値や供給の安定性を加味した評価軸が必要となるでしょう。
米中対立と「レアアース・ショック」の再来に備える日本
2010年、尖閣諸島周辺での問題を発端とした中国によるレアアース輸出制限、いわゆる「レアアース・ショック」が起きました。
当時、ハイテク産業を抱える日本企業はパニックに陥り、供給網の脆弱性が浮き彫りになりました。現在も米中貿易戦争が激化する中で、中国はレアアースを「重要な戦略資源」と位置づけ、再び武器化する動きを見せています。
中国は現在、世界のレアアース精錬量の約9割を占めており、圧倒的な支配力を維持しています。
このような状況下で、国産資源を確保することは、日本の「首根っこ」を他国に握らせないための防衛策でもあります。たとえ一時的にコストが割高になったとしても、有事の際に産業を止めないための「保険」としての価値は計り知れません。
資源安全保障は、国家の自立そのものです。南鳥島のレアアース開発は、単なるビジネスの枠を超え、日本の産業の未来を守るための砦となります。
アメリカをはじめとする先進諸国も日本の成果に注目しており、国際的なサプライチェーンの再構築における要所となっています。
中国による「南鳥島周辺」への不気味な接近とリスク
近年、中国が南鳥島EEZに隣接する公海上で、急速に鉱区の取得を進めていることが分かっています。
日本のEEZのすぐそばで、レアアース泥やマンガンノジュールの調査を精力的に行っているのです。これは、日本が開発を躊躇している間に、周辺の好条件なエリアを先占しようとする動きとも取れます。
もし日本が開発を断念すれば、「日本の目と鼻の先で採掘された資源を、中国から買う」という皮肉な事態になりかねません。中村教授が「悪夢のような未来」と表現するように、技術的優位性を失うことは安全保障上の重大なリスクです。
スピード感を持って実用化を進めることが、他国の不当な圧力に対する最大の抑止力となります。
海洋資源の権益を巡る争いは、すでに始まっています。2026年の試験採掘は、日本が自らの海域を守り、資源を有効活用する意思を世界に示す場でもあります。
この競争に勝ち抜くためには、国民の理解と、官民挙げた継続的な投資が必要不可欠です。
まとめ:日本のレアアース採掘の未来と採算性の課題
今回の調査を通じて、日本のレアアース採掘がいかに重要な局面に立たされているかが明らかになりました。2026年1月11日から始まる試験採掘は、単なる技術検証ではなく、日本の未来を左右する一大イベントです。
最後に、これまでの重要ポイントを整理し、私たちが今後注目すべき点を確認しましょう。
まず、場所は南鳥島周辺のEEZ内であり、そこには日本の需要を数百年分満たす資源が眠っています。そして、IHIや東洋エンジニアリングといった国内企業が、世界最高峰の深海掘削技術を武器に参戦しています。
最大の壁である採算性については、環境負荷の低さを生かしたトータルコストでの競争が鍵となるでしょう。
中国依存から脱却し、完全な資源自立を達成できるかどうか、その分岐点が今まさに訪れています。2026年の試験採掘の結果次第では、日本の産業界に革命が起き、世界有数の資源国として台頭する可能性も十分にあります。
この歴史的な挑戦の行方を、今後もしっかりと見守っていく必要があります。
まとめポイント
- 2026年1月11日、南鳥島周辺で世界初のレアアース泥試験採掘が開始される
- 採掘場所は日本のEEZ内であり、約1,600万トンの膨大な埋蔵量を誇る
- 国産レアアースは有害な放射性物質がほぼ含まれず、非常にクリーンである
- IHIや三井物産などの企業連合が参画し、6,000mの深海技術に挑む
- 中国の価格攻勢や周辺海域への進出に対し、経済安全保障の確立が急務である
- 商業化に向けた最大の課題は「採算性」であり、年間数100万トンの採取が目標
- 国産資源の確保は、有事の際の産業停止を防ぐための不可欠な投資である


